その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―




「お誘いはありがたいけれど、今の私には本社への異動の意志はありません」

「礼子」

私がきっぱりと告げると、北原さんが少し傷ついたような顔をした。


「昨日お応えしたように、まだ結婚の予定はないです。でも気になっている人はいますから、私への気遣いは今後不要です」

そう言って微笑んで見せると、北原さんが力なく私の手を離した。


「そうか。そうだよな。でももし……」

「失礼します。もうすぐミーティングで会議室使いたいんですけど、いいですか?」


北原さんが私に何か言いかけたとき、会議室に誰かが入ってきた。

ふと見るとそこにいるのは広沢くんで、北原さんとふたりきりでいるのを見られたことにひどく焦る。


「え、えぇ。もちろん」

いつからそこにいたのだろう。

話を聞かれていないといいけど。


「じ、じゃぁ、役職者会議で聞きそびれた質問もできましたし、行きましょうか。北原さん」

さっきの役職者会議のことで質問をしていたふうを装って、北原さんを促すように会議室を出る。