「今思えば、礼子と一緒にいた空間はとても居心地がよかった」
話の意図が読めなくなってきて首を傾げたとき、北原さんが私との距離を縮めてきた。
「礼子。今さらかもしれないけど、本社に異動の希望を出す予定はないかな?礼子だったら、本社で仕事をしても評価されると思う」
不意に真顔になった北原さんが私に訊ねる。
「それは本社の意見としてですか?それとも北原さん個人の?」
入社してから長く今の支店に勤めていて、ここである程度の地位には就いているけれど、本社から声をかけられたことは今まで一度もない。
首を傾げると、北原さんが困ったように笑った。
「どちらかというと、俺個人の意見かな。礼子にもしその気があれば、推薦の手助けはできるよ」
「どうして急にそんなことを?」
「そうだな……数日だけどこの支店で仕事をする君を見ていて、昔のことをいろいろ思い出したのかも」
「昔のこと、ですか?」
「そう。身勝手だけど、今になって礼子をあんなふうに置いていったことを後悔してる」
北原さんが私を見つめながら、手を握ってきた。



