「礼子……」

何か言いたげな顔をしている北原さんを不審に思う。

無言で見つめ返すと、北原さんが躊躇いがちに口を開いた。


「昨日は結局話しそびれてしまったけど、あのときは本当に悪かった……」

北原さんがそう言って、急に私に頭を下げるから驚いた。

あのときというのは、別れ話を切り出されたことなのか。

それとも、私を切り捨てて副社長のお嬢さんを選んだことなのか。

北原さんがいったいどのことについて具体的に謝っているのかわからないけれど、私には今さらどうでもよいことだった。


「もう何も気にしてないので。そんなふうに頭をさげないでください」

もし北原さんが私に頭をさげているところを同僚の誰かに目撃されたら、きっとさらに私への悪評が立つだろう。



「別れたあとは気まずくて、社内でも礼子になるべく関わらないようにして君から逃げるように本社に行ってしまったし。今さらだって言われても仕方がないけど、あのときはあまりにも身勝手だったと反省してる」

「本当にもう、気にしないでください」

もう一度言うと、北原さんがようやく顔をあげた。