纏めた資料を抱えると、自分で自分に気合を入れて振り返る。
そのとき、ちょうど会議室のドアから北原さんが入ってきた。
何か忘れ物……?
そう思って、資料以外に私物が置き忘れられていなかったか会議室を見渡す。
さっき片付けた限りでは、何もなかったように思うけど。
「礼子」
不思議に思いながら北原さんのほうを見たとき、彼がプライベートで付き合っていたときのように私を呼んだ。
北原さんが支店長だったとき、彼はきちんとオフィスでの私の呼び方に気を付けていた。
それなのにこの前の懇親会といい、今といい、少し無防備すぎる。
「後片付けありがとう」
「いえ」
無表情で会釈だけすると、北原さんが薄く苦笑いした。
「もうそろそろ東京の本社に戻るから挨拶していこうと思って」
「そうですか。お疲れ様です。いろいろとありがとうございました」
「いや、こちらこそ。急なのにわざわざ懇親会まで企画してくれてありがとう」
「いえ。川口企画部長からの指示ですから」
「だとしても、セッティングありがとう。懐かしいこの支店のメンバーとゆっくり話せて楽しかった」
「いえ、喜んでいただけたならよかったです。じゃぁ、私も仕事に戻りますね。気を付けてお帰りになってくださいね」
笑顔でそう言って会議室を出ようとすると、北原さんが私を呼び止めた。



