「意味があってもいいのよ。広沢くんと秦野さん、仲良いって部署内でも噂になってるし」
「碓氷さん……」
そう言って口元に笑みを作ってみせると、広沢くんが哀しそうな目で私を呼んだ。
「さぁ、もう本当に店を出なくちゃ。行きましょう」
笑みを崩さないままそう言って、広沢くんに背を向ける。
その瞬間に、ギリギリで保って見せていた笑みが私の顔から消え落ちた。
「碓氷さん……」
もう一度、広沢くんが私を呼ぶせつなげな声が聞こえたような気がしたけれど、冷静な顔で振り向ける自信がない。
そのまま何も聞こえなかったフリをして、ひとりで彼から遠ざかった。



