「帰らないの?みんな店から出てるけど」
広沢くんのそばに戻って話しかけると、彼が座ったまま私をジッと見上げた。
さっきと変わらず、無表情で冷たいままの彼の瞳にドキリとする。
困惑気味に見下ろしていると、広沢くんがようやく口を開いた。
「碓氷さんは?帰らないんですか?」
「帰るつもりだけど、広沢くんが動かないから……」
「気にかけてくれたんですか?」
意地悪く唇を引き上げた彼の言葉に、少し動揺して視線が泳いだ。
「気にかけたというか……具合でも悪いのかと思って」
「具合悪いって言ったら、俺のうちまで来て、朝まで一緒にいてくれますか?俺が前に碓氷さんにしたみたいに」
首を傾げながら私を見上げる広沢くんが、声量をあげる。
その声は、客たちの話し声で騒がしい店内でもそこそこ大きく響いた。
「ちょっと、やめて」
まだ、企画部長や北原さんを含めて同僚たちが数人店内に残っているのに。
私と広沢くんからは少し離れた場所にいるものの、彼の言った言葉が会社の同僚たちの誰かの耳に届いていたら……と思うと気が気ではなかった。



