その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―




「礼子。今さらだけどあのときは――……」

しばらく考え込むようにしていた北原さんが私に向かって何かいいかけたとき、それを遮るように彼のスマホが鳴った。

スーツのポケットからスマホを取り出した彼が、その画面を見て難しげに眉根を寄せる。


「私のことは気にせず、出てくださいね」

スマホを見つめて迷っている北原さんに笑顔で伝えると、彼が「ごめん、あとで」と小さく言ってスマホを耳にあてながら私から離れて行った。

その間にテーブルに戻ろうとして、結局手に握ったままになっていたお札のことを思い出す。


結局、渡されたお金を返しそびれてしまった。

北原さんが歩いて行ってしまったほうを目で追いかけると、彼はこっちに背を向けたまま電話中だった。


まぁ、ありがたく懇親会の費用の足しにさせてもらえばいいか。

北原さんに渡されたお金を今支払いしたばかりの領収書に重ねると、先にひとりでテーブルに戻った。