「いや、これはちょっと多すぎます」
慌てて返そうとしたら、北原さんにお札を持った手のひらごとつかまれて押し戻された。
「多かったら、妹さんのご祝儀にしてくれたらいいから」
手をつかまれたまま笑顔で見下ろされて、はっとする。
「いえ、そんなこともっとできないですよ」
大きく首を横に振る私を見て、北原さんが笑った。
「朝は言いそびれたけど、おめでとう。妹さんのお子さんの、乃々香ちゃんだっけ?元気にしてる?」
たった一度合わせただけなのに、乃々香の名前まで覚えてたのか。
「はい。よく覚えてますね」
「そりゃ、ね……」
素直に感心してそう言ったら、北原さんが苦笑いしながらつぶやいた。
北原が浮かべた表情の真意はわからないけれど、付き合っていた当時は些細な気遣いができる彼に好感を持っていた。
別れ方やその直後の彼の態度にはいい印象はなかったけれど、たった一度合わせただけの私の親戚のことを真剣に覚えようとするくらいには、彼も私に好意を持っていてくれていたということなのだろうか。



