「広さ……」
つい衝動的にその背中を追いかけようとして、直ぐに足が止まる。
ちょうど広沢くんの向こう側から秦野さんが歩いてきていて、彼女が廊下で出会った彼に嬉しそうに笑いかけるのが見えたのだ。
秦野さんはその細腕には重そうな段ボール箱を一つ抱えていて、話しかけられた広沢くんがその箱を彼女から受け取っている。
秦野さんに代わって段ボール箱を抱えなおした広沢くんが、くるりと踵を返した。
そうして、箱を抱えながら廊下をこっちに向かって引き返してくる。
身軽になった秦野さんも、広沢くんの隣に並んで一緒に歩いてきた。
重そうな箱を抱える広沢くんの顔に特別な感情が浮かぶ様子はないけれど、彼と並んで話しながら歩いてくる秦野さんの表情は明るくて楽しそうだった。
「ありがとう、広沢くん。そこで偶然会えて本当に助かっちゃった」
ふたりが近づいてくるにつれて、会話の内容も自然と耳に入ってくる。



