意識して淡々と話す私に、広沢くんはやっぱり哀しそうに笑いかけてきた。
「いえ。碓氷さんは全然間違ってないです」
散々突っかかってきたくせに、急に私を肯定するようなことを言うから拍子抜けした。
だったら、なぜ突っかかってきたのだろう。
彼の言動の意味がよくわからない。
怪訝に眉をしかめると、広沢くんがふと真顔になった。
「でも、とりあえず、すげームカつきます」
私に向かって、広沢くんが低い声でぼそりとこぼす。
その言葉に、胸の奥が騒ついた。
「『参加者が碓氷さんだけでも飲み会に参加する』なんて、みんなの前でさらっと言っちゃう北原さんのことも。そんな北原さんにさり気なく気遣いしてる碓氷さんことも。ふたりがまるで何の関係もなかったみたいに、お互い仕事の顔で接していることも。全部、間違ってないからムカつきます」
「広沢くん?」
広沢くんが、私から顔を背けて足元に視線を落とす。
「すみません。仕事、戻ります」
ぼそりとつぶやくと、広沢くんは私から逃げるように早足で歩いて行ってしまう。
いつも部下としては過剰なくらいに構ってくる広沢くんに向けられた背中が、今は私を拒絶しているように見えて、少し胸が痛かった。



