その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



「北原さんと?」

「昔本社からの出張者が来たときに、仕事で行ったのよ」

「北原さんとですか?」

「いたかもしれないけど、仕事の付き合いだったから」

「でも、一緒に行ったんですよね?」

「その言い方には語弊があると思うんだけど」

しつこく問いかけてくる広沢くんから距離を置こうと歩を速める。

けれど、彼も同じように歩を速めてきた。


「そういえば、北原さんてワイン好きでしたよね?」

「へぇ、そう」

適当に流して話を終わらせたいのに、広沢くんはそうさせてはくれなかった。


「やっぱり、公私混同してるじゃないですか」

「してないわよ」

「してますよ」

「だから、してないってば!」

しつこく言われて、つい大きな声が出る。

廊下に響いた自分の声にはっとして立ち止まると、広沢くんが私を振り向いて哀しそうに笑った。


「してないなら、そんなにムキになって否定しないでくださいよ」

「広沢くんがしつこいからでしょ。誰かを歓迎する会で、その人の好みに合った場所を選ぶ配慮をするのは当たり前でしょう?現に、広沢くんだって北原さんがワインが好きなことを知ってるじゃない。知っていて、配慮することは間違ってる?」

大きな声を出さないように、呼吸を整えて冷静に話すように善処する。