その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



「じゃぁ、とりあえず今は解散して、それぞれ仕事を終わらせて19時に。お疲れ様」

「お疲れ様でした」

北原さんの解散の号令で、会議室に集まっていた社員がそれぞれに各自の部署へと戻っていく。

半分くらいの社員が会議室を出た頃、北原さんも他の部署の社員と話しながら会議室を出て行った。

その背中を見送ってから、私も会議室を出る。


「碓氷さん。今日の店ってどこですか?」

企画部に戻る廊下を歩いていると、後ろから追いかけてきた広沢くんがさりげなく私の横に並んだ。


「オフィスから5分くらいのところにあるイタリアン」

あえて広沢くんを振り向かずに前を見たまま、この近隣ではやや高級なそのレストランの名前を伝える。


「あぁ。ワインの種類が豊富なことでも有名なとこですね」

「そうかもね」

「行ったことあるんですか?」

「一応ね」

曖昧に返事をすると、横顔に広沢くんの視線を感じた。