その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



「わかりました。じゃぁ、あとでお店の場所をお伝えしますね」

北原さんに向かって小さく頷いたとき、菅野さんの隣に座っていた広沢くんがガタッと大きな音を鳴らして椅子から立ち上がった。


「俺、参加します」

会議室のテーブルに両手をついた姿勢で立ち上がった広沢くんが、北原さんにそう言ったあと私のほうに顔を向ける。


「碓氷さん。俺、メンバーに入れといてください」

私に向けられた彼の瞳の色は、あまり穏やかではなかった。


「あ、はい。入れときます」

つい敬語で返してしまった私に、広沢くんが明らかな愛想笑いを返してくる。

笑顔で私をじっと見てくる彼の目が怖かった。


「もし他に、参加したい方がいれば……」

広沢くんの強い眼差しを受け止めきれなくなった私は、それを避けるように顔をそらした。

遠慮がちに問いかけると、ポツポツと参加者が手を挙げてくれる。


「北原さんとひさしぶりに飲みたいんで」

企画部長の提案は急だったけど、北原さん自体は支店長時代に部下から人気のある人だったので、最終的にはお店の予約をキャンセルしなくていいだけの人数は集まった。