その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



「碓氷さん、気を遣わせて悪かったね。人数が集まらなくても、俺は参加するから」

別れたあとは本社に異動するまでの間、業務上必要な最低限しか話しかけてこなかった彼に、名前を呼ばれて驚いた。


「あ……いえ。参加人数が少なければキャンセルするので」

驚いて、返事をするのに妙な間ができる。

慌てて取り繕ってそう答えると、北原さんが他の社員たちへするのと同じように私に笑いかけてきた。


「いや、大丈夫。もし参加者が碓氷さんだけでも、ちゃんと行くから」

そのうえ、私に向かってそんな冗談を投げかけてくるからさらに驚いた。

でもすぐに、それは驚くべきことでもないのだと気付く。

だって、別れてもう半年は経つのだ。

今さらギクシャクした空気になるのもおかしいし、北原さんは支店の一社員として私に対応してくれている。

そのことを私は全く淋しいとも悲しいとも思わなかったし、むしろそうしてもらえてありがたかった。


北原さんは、本社の上司。

目の前で私に向かって話しかけてくる彼に対して、それ以上の感情はもう抱いていなかった。