その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



「あれは公私混同とは違うわよ」

「違わないですよ」

否定しても、広沢くんは自分の意見を曲げない。


「もういいわ。こんなところで、こんな話してる暇ないもの」

「嫌なんです」


ため息を吐いてデスクに戻ろうとすると、広沢くんが私の手首をつかんで引き止めた。

部署の端であまり人目につかない位置とはいえ、勘違いされるような接触はよくない。

慌てて手を振り払おうとしたけれど、振り向いた私の目にひどく切なげな広沢くんの表情が映って動けなくなった。


「必要以上に北原さんと関わらないでください」

広沢くんの声がやけに耳に響いて、私の胸を騒つかせる。

言葉を返すこともできずに見つめていると、広沢くんが自嘲気味に笑いながら私の手を離した。


「すみません、碓氷さん。今の、忘れてください」


そうつぶやくと、広沢くんは空のままのマグカップを持って自分のデスクに戻って行った。

しばらく呆然としたあと、すっかり冷めたコーヒーの入ったマグカップをつかむ。


忘れるって、何を……?

そんなの、無理に決まってる。