その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



「違う。急な本社からの視察なんて、来るのが北原さんじゃなくても驚くでしょう」

否定したら、広沢くんがしばらく無言になった。


「とにかく、私は明日と明後日は動けないから。北原さんに失礼のないように、しっかり視察の準備をしておくようにみんなに伝えてね。おそらく、企画部長からいろいろと指示が出るだろうけど」

広沢くんが今どんな表情を浮かべているのかわからないけれど、とにかく体裁を保ちたくてオフィスにいるときのように彼に指示を出す。

そんな私の言葉を聞いているのかいないのか、広沢くんは繋がった電話の向こうでとても静かだった。


「もう遅いし、切ってもいい?」

何も話さない広沢くんとの沈黙がつらくて、私から切り出す。


「じゃあ、もう切るから」

それでも何も言わない広沢くんに念を押すようにそう言ったとき、彼の声が聞こえた。


「今でも好きですか?北原さんのこと」

ひとりごとみたいにつぶやかれた小さな声だったけれど、その言葉がはっきりと私の耳に届く。