その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



「あ、そういえば……」

私に向かって大した内容のないことを話し続けていた広沢くんが、ふと思い出したように一度言葉を切る。

そのまま黙って耳を傾けていると、彼がまた話し始めた。


「そういえば、今日の夕方に企画部長から部署全体に連絡があったんですけど……来週の月曜と火曜に、本社の北原さんがうちの支店を視察に来るそうです」

「え……?」

ひさしぶりに聞くその人(・・・)の名前に、つい驚嘆の声が漏れた。


「そっちには動揺するんですね?」

少し間を空けてから、広沢くんがぽつりと零す。

彼の声音が明らかに低くなったのがわかって、そのことにひどく焦った。


「何言ってるのよ。別に動揺なんか……」

「声、上擦ってますよ?碓氷さんのくせに」

間髪入れずに、広沢くんが低い声で指摘してくる。


「私はただ、本社からの視察なんて聞いていなかったから少し驚いただけで……」

「それは、来るのが北原さんだからですよね?」

責めるように問いかけてくる、広沢くんの低い声が怖かった。