その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



「そう」

「すみません。私のミスなんです。さっき印刷会社への依頼書を見直したら、納品日を取引先のPRの日に設定してしまっていました」

「そう……」

秦野さんがシュンと小さく鼻をすする音をききながら、どうすれば良いか思考を巡らせる。

秦野さんの報告を聞いたときは印刷会社が納品日を間違えたのかと思っていたけれど、こちらが納品日を週明けにしていたのなら交渉も通りにくいはずだ。

そのとき、秦野さんのノートパソコンの右下に表示されたデジタル時計の時間が目に入った。

時間はさらにすぎていて、乃々香を迎えに行く時間が少しずつ迫ってきている。

ふとそう思ったら、秦野さんのトラブル解決のために全神経を集中させることができなくなった。

乃々香や美弥子のことが気になって、思考がうまく働かない。



「とりあえず、早く印刷を頼めるほかの会社をあたってみましょうか……」

そう口にしながら、ではどこなら急な依頼を受けてくれるのか。

秦野さんからの依頼を彼女が提示した納期までに進めようとしてくれていた印刷会社へのフォローはどうするのか。

いろいろと迷いが出てしまって、具体的な解決策が提示できない。