あぁ、うまく交渉できていないんだ。
秦野さんの表情を見ていれば、それがすぐにわかった。
このまま彼女の交渉が失敗すれば、私はまだしばらく退社できなくなるだろう。
彼女が話している印刷会社の担当者とは、私も面識がある。
電話を代わって私からも交渉してみればもしかしたら……
そう思って立ち上がりかけたとき、秦野さんが電話を終えて、泣きそうな顔でぱっとこちらを向いた。
無言で助けを求めてくる潤んだ彼女の瞳に、今ばかりは少し苛立ちを感じてしまう。
けれど、だからといって放置することもできない。
自ら報告に来る気力もなさそうな秦野さんのそばに、私が歩み寄っていった。
「どうだった?」
交渉は失敗。
秦野さんの表情を見ればわかることだったけれど、万が一の可能性にかけて問いかけてみる。
秦野さんはうつむくと、無言で小さく首を横に振った。
「やっぱり、週明けの予定は早められそうにない?」
「依頼が立て込んでて……早めるのは難しいそうです」



