その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



なかなか行動に移そうとしない秦野さんに少しイライラとしながら、刻一刻と進んでいく時計の針を見つめる。

普段ならもっと心に余裕があるけれど、今日ばかりは秦野さんのトラブル以上に美弥子や乃々香のことが気がかりだった。

まだもう少し時間はある。

でも、早く解決できるようにしてもらわないと。

ずっと秦野さんの行動を見張るわけにもいかないので、彼女と時計を気にしつつノートパソコンで事務的な作業をこなす。

けれど、いまいち集中できず、全く作業が捗らない。

相談を受けてからそろそろ30分が過ぎようとしている頃、ようやく心を決めたらしい秦野さんが電話をかけ始めた。

不安を全く隠しきれていない彼女の横顔を、ノートパソコンの陰からそっと見守る。

おそらく、私が指示したとおりに印刷会社に交渉の電話をしているのだと思うけれど、私のデスクから見える秦野さんの表情はあまり芳しくない。

彼女のデスクからは距離があるので、話している内容は私の耳までは届かない。

けれど、ただでさえ不安そうだった彼女の横顔にはどんどん暗い影が落ちていく。