その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―




「印刷会社には、どうしても間に合わないって言われたの?何とか今日は無理でも明後日までには仕上げてもらえないか、よく交渉してみた?」

「それはまだ……」

私の問いかけに、秦野さんが気まずそうに口ごもる。


「じゃぁまず、もう一度印刷会社に電話して、何とか明後日の木曜日までにお願いできないか交渉してみて」

「私がですか?」

秦野さんが、自信なさげに上目遣いで訊ねてくる。

思わずため息がこぼれそうになったけれど、何とか堪えた。


「もちろん。まずは自分で頑張ってみて。秦野さん担当の取引先なんだから」

「……はい」

ほとんど消え入りそう声で返事をすると、秦野さんはのろのろと気が重そうにデスクへと戻って行った。

秦野さんの交渉が難航しそうなら、手助けするつもりで彼女の様子を自分のデスクからそっと見守る。

ゆっくりと椅子をひいて座った秦野さんは、それからしばらく考え込むようにパソコンの画面を睨んでいて、なかなか電話に手を伸ばそうとしない。