その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―




「実は、今日の午前中に取引先に納品予定だったパンフレットがまだ届いていないみたいで……印刷会社に問い合わせたら、納品日が週明けの午前中になっていると言われたんです……」

「それで?」

「それで……どうしても今日には間に合わないみたいで……」

泣きそうになりながら、イマイチ要領の得ない話を始める秦野さんに小さく首を傾げる。


「納品日が間に合わないのはわかったけど、それは何のためのパンフレットでそれが間に合わないことでどういう問題が起きそうなの?」

もう少し具体的な話を進めたくて切り込んだ質問をしたら、秦野さんはうつむいて黙り込んだ。

固く引きむすんだ唇が、少し震えている。


「秦野さん?」

「あの……それは取引先が来週明けに行う新商品のPRイベントで使用するもので。遅くで明後日の木曜日までには間に合わせてもらいたいと言われていたものなんです。その取引先は、退社された仲崎さんから引き継いだところなんですけど……仲崎さんからの引き継いだときに私の認識違いで少しトラブルがあって、以前にも一度納期を延期してもらったことがあって…」

言葉を慎重に選びながら話す秦野さんの震える声を聞きながら、以前にもそのことで相談を受けたことがあったのを思い出した。