その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



つい気になって見ていると、受話器を置いた秦野さんが今にも泣きそうな顔で立ち上がる。

そうしてぱっと私のほうを振り向くと、涙を懸命に堪えるような表情でこっちに向かって歩いてきた。

これは確実にトラブルだ。


もう今すぐにでも退社しようと思っていたのに、私に縋るような目をして近付いてくる秦野さんを無視して出られない。

ちらっと壁の掛け時計を見た。

乃々香の学校の終了時間までは、まだ時間がある。

学童に行くことになっているみたいだから、なるべく早くそっちに向かって乃々香を引き取ればいい。

ここから乃々香の学童まで行く時間を逆算して、会社を何時までに出ればいいか頭の中で考える。

あと、2時間半くらいなら……

気持ちを切り替えて秦野さんに視線を戻すと、カバンをおいた。


「碓氷さん、少しいいですか?」

椅子に座って今閉じたばかりのノートパソコンを開くと、秦野さんが声を震わせながら話しかけてきた。