迷いながら、デスクの上のスマホに視線を向ける。

広沢くんの問いかけにはっきりと答えられずにいると、彼が無言で私のスマホをつかんで私のほうに突きつけてきた。

そっと視線をあげると、広沢くんがやっぱり怖い目で私をじっと見ている。


「碓氷さんがかけなおさないなら、俺がかけます」

それでも迷っていると、広沢くんがスマホをさらにぐっと私のほうに突きつけてきた。

それでもスマホを受け取らずにいると、広沢くんがため息をつきながら腕をおろした。


「碓氷さん、本当に強情ですよね。もういいです。俺がかけます」

そう言って、スマホを持ったまま私に背を向ける。

そのままほんとうに歩き去っていこうとするから、流石に私も慌ててしまった。


「ちょっと待って」

慌ててデスクから立ち上がった私に、周囲の視線が集まる。

同僚たちの好奇の眼差しが、妙に突き刺さってくるような気がした。



「広沢くん、資料を忘れてるわよ」

何とか体裁を保ちたくて咳払いすると、デスクに置いてあった適当な資料の束を彼に手渡す。

本当は広沢くんが忘れている資料なんてなかったけれど、不自然にならないようにスマホを取り戻したくて咄嗟に思いついた手段だった。