レストランのコースメニューは前菜からデザートまでとても美味しくて、広沢くんも満足してくれたみたいだった。

食後のコーヒーをゆっくり飲んだあと、会計のレシートを持って席を立つ。

広沢くんが半分出すと言ってきたけれど、彼への『お礼』のための食事だったから、私が支払いをするということだけは譲れなかった。


「カードで払いたいから」

広沢くんの意見を押し切って、手早く会計を済ませて店を出る。

このまま家まで送り届けてくれるという広沢くんの言葉に甘えて車に乗り込むと、運転席に座った彼がハンドルに腕を乗せながら助手席の私の顔を覗き見てきた。


「れーこさん、ごちそうさまでした」

「どういたしまして」

これで、少しは昨日のお礼になっているといいんだけど。

そう思いながら車が発進するのを待っているのに、広沢くんはなかなか駐車場から車を出そうとしない。

不思議に思って隣を見ると、広沢くんはまだ、ハンドルに腕をのせたまま私のことをじっと見ていた。