可笑しな感情を抱いて、勝手に少し傷付いて。

部下相手にどうかしてる……


「れーこさん?」

膝にかけたナプキンに視線を落としてしばらく無言でいると、広沢くんが心配そうに呼びかけてきた。

ついさっき聞いた低い怒ったような声とは違う、優しげな声音で呼びかけられて、なんとも言えない熱い感情が喉の奥まで競り上げてきた。


ちょっと間延びした調子で呼ばれると、私っぽく思えない。

でも、広沢くんが呼んでくれる私の名前。

彼がそうやって呼んでくれることを、恥ずかしいけど嬉しいと思ってる。

競り上がってくる感情を喉元で押さえ込みながら、私はそのことを認めざるを得なかった。


「デートでももちろん来たことがあるんだけど……」

ぼそぼそと話しながらそっと視線をあげると、広沢くんが小さく首を横に傾げる。


「家族のお誕生日とか特別なお祝いのときに、いつもここを使うの」

言い訳をしたいわけではなかったけど、気付けばそんなふうに本当のことを打ち明けていた。

前回この店を利用したのは、今もなお仕事を続けている父の還暦祝い。