その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―




「何するのっ……」

広沢くんの悪ふざけに、つい苛立ちがこみ上げる。

揺れてバランスのとりにくいハンモックから手をついて起き上がろうとしていると、私を見下ろすように上体を起こしていた広沢くんが悪戯を思い付いた子どものようにニヤリとした。

その笑みの意味を怪訝な目で推し量っていると、広沢くんの腕が私の肩を押すようにゆっくりと下りてきた。

何か言葉を発する前に、起こしかけていた背中がまたハンモックへと沈む。

いくらなんでも悪ふざけが過ぎる。


「ちょっと……」

込み上げてくる苛立ちとともに、怖い顔で横を向いたら、思っていたよりもすぐそばに広沢くんの顔があった。

思わず反論の言葉を失ってしまった私に、広沢くんが笑いかけてくる。

その笑顔に妙な胸騒ぎを感じた私は、無言で頭を戻して空を仰いだ。

ハンモックのかけられた木々の枝の間から、晴れた空が見える。

遥か上空を飛行機が通過して行くのが見えて目を細めると、同じタイミングで広沢くんが空に向かって腕を上げた。