その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



けれど広沢くんは、彼が作ったサシェののった私の手のひらをそのままぎゅっと握らせた。


「交換してください。俺のと」

笑いながら、肩がけしていた小さなカバンに私の作ったサシェをしまう広沢くん。

その言動に、頭の中で疑問符が浮かぶ。


「え?」

「じゃぁ、次行きましょう。れーこさん」

ぽかんとしていると、広沢くんが立ち上がって歩き出そうとするから、ますますわけがわからなかった。


「え、ちょっと待って」

手のひらに広沢くんのサシェを包んだまま、慌てて立ち上がって彼を追いかける。



「ちょっと待って。私のは?」

「交換したでしょ?」

横に並ぶと、広沢くんが私のほうを見て口角を引き上げた。


「れーこさんの好きな香りは俺が使うんで、俺が作ったのはれーこさんが使ってください。そしたら、ときどき俺のこと思い出すでしょ?」

「会社で毎日顔合わす人のことを、どうして思い出さないといけないのよ……」

「毎日会うから、思い出すまでもないですか?」

「だから、どうして私が広沢くんのことを想ってるみたいな設定になってるのよ」

冷たい眼差しを投げかけると、彼が愉しそうに笑った。