その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



「間違ってるわよ」

広沢くんの作ったサシェは、私のものとは全然香りが違う。

主張のあるフレッシュな香りで、嫌いではないし、広沢くんが選びそうだなとは思う。

けれど、もし私が自分で作ったりどこかで買ったりするとしたら、たぶんこの香りは選ばない。

わざとふざけているに違いない広沢くんに、手のひらにのせた彼の作ったサシェをもう一度突き返す。

広沢くんはそれをただ眺めるだけで、受け取ろうとはしなかった。


「ふざけてないで、交換してもらえる?」

私が作ったものは、とても好みの香りになっていたと思うのだ。

社内で部下に指示をするような口調でそう言ったら、広沢くんがふっと笑った。


「れーこさん、会社の上司みたい」

「実際、上司だから」

馬鹿げたことを口にする広沢くんに呆れた眼差しを向けると、彼が「そーでした」とふざけた調子でつぶやいた。


「冗談はいいから。交換して、次に行きましょう」

「そうですね。交換しましょ」

広沢くんがそう言うので、彼が私の手のひらのサシェを入れ替えるのをじっと待つ。