その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



ラベンダーの花が咲き乱れるハーブのガーデンを通り抜けると、可愛いデザインの建物があった。


「れーこさん。ここで、何か体験できるみたいですよ」

広沢くんが、建物の入口の前にある看板を指差す。


「これ、れーこさんが気になるって言ってたやつですよね?」

広沢くんが、ズボンのポケットに突っ込んでいたパンフレットを取り出して、それと看板の説明を見比べる。

入り口でちょっとつぶやいただけなのに。

ちゃんと聞いて、覚えてくれていたのね。

広沢くんの記憶力の良さを感心するとともに、ほんの少しだけ胸が騒ぐ。


その建物は体験工房で、今はオリジナルのサシェを作れるというイベントをやっていた。

小さな布の巾着にドライハーブを詰めて、好みの精油を垂らす。

手のひらに乗るくらいの可愛いサシェが作れて満足していると、「待ってるのも暇だから」と、隣で同じように作っていた広沢くんが、私の手からそれを取り上げた。