その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



テーマごとにいろいろな種類の花が咲いているガーデンの中を広沢くんと一緒に散策する。

ときどきおもむろに立ち止まっては、全体の景色や花の写真を撮っている広沢くんのそばで、私もいくつか気になる花の写真を撮った。

バラやハーブのガーデンは、見た目の美しさももちろんだけれど、花のいい香りが漂っている。

最近の週末は家にこもって読書しているか、妹の入院する病院で乃々香の相手をしていることが多かった。

そのせいか、目の前に広がる非日常な風景がとても明るく見えた。


気持ちがいいな。

周りの存在を忘れて、目を閉じて大きく空気を吸い込む。

息を吐きながらゆっくりと目を開けようとしたとき、ふと横顔に視線を感じた。

そっと振り向くと、口角を緩くあげてにやりと笑う広沢くんと目が合った。

慌てて表情を引き締めると、それに気付いた広沢くんがさらににやりと笑う。


うっかり気を抜けない。

いたずらな彼の笑みなど見えていないフリをして先に進む私の背後で、クスリと笑う声が聞こえてくるような気がした。