その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―




「消せませんよ。せっかくのデートの思い出なのに」

「そんな思い出残さないで」

誰かに見られたら嫌だし、あんな間の抜けた顔の自分の写真が部下のスマホに保存されていると思ったら恥ずかしい。


「じゃぁ、ちゃんとしたのを一緒に撮ります?」

広沢くんが小首を傾げながらニヤリとする。


「撮らないわよ。もし万が一、そんなもの撮って社内にでも流出してしまったら、それこそ大問題じゃない」

真面目に顔をしかめたら、広沢くんがけらりと声をあげて笑った。


「れーこさん、大袈裟。じゃぁ、この写真は流出させないよう気をつけますね」

笑いながら、広沢くんがスマホをポケットにしまう。


「そうじゃなくて、削除して」

「帰るまでに考えときます。れーこさん、歩きましょう」

展望台の柵のそばから離れて、広沢くんが丘の麓に向かって広がるガーデンへと歩き出す。

考えるって。絶対そんな気ないわよね……?


ため息をつくと、軽快な足取りで進んでいく広沢くんの背中を追いかけた。