その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



「あ、写真撮っとこ」

独り言みたいにつぶやいて、広沢くんがスマホを取り出す。

それを横に向けて、綺麗な写真を撮るために真剣になっている広沢くんの横顔を眺めていたら、不意に彼がこちらを振り向いた。


「れーこさんも」

スマホが向けられたかと思うと、なんの準備もなくぼんやり立っている私に向かってシャッターが切られる。


「やめてよ、急に」

慌ててスマホのレンズを覆うように手のひらを前に伸ばしたけれど、既に写真を撮られたあとでは何の意味もなかった。


「急でも、綺麗に写ってますよ?」

先に確認してから、広沢くんが私にスマホの写真を見せてくる。


「やめて」

カメラ目線でもなく、気が抜けたぼんやりとした顔で立っている自分の姿は、お世辞でも綺麗に写っているなんて言えない。

綺麗なのは背景の景色だけだ。


「削除しといて」

スマホを取り上げようと手を伸ばしたら、それをつかむ直前で広沢くんに素早くかわされた。