その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



ロープーウェイで植物園の頂上の丘まで登ると、そこからは街が一望できた。

街の向こうには港と海が見える。

丘の上から景色を眺めるのに、今日のお天気は最高だった。


「うわー。気持ちいいですね!」

「そうね」

展望台の柵に両手をついて、広沢くんが感嘆の声をあげる。

そんな広沢くんのことをちらっと盗み見ていると、風に乱された前髪をかきあげた彼が不意に私を振り向いて笑った。


「夜景見に来てもよかったかもですね」

「そう、ね……」

一応同意はしてみたものの、内心では昼間でよかったと思っていた。

確かにここは夜景が綺麗で有名だけれど、それと同時に夜はデートスポットにもなる。


その雰囲気に『お礼』という名目を保ちながら広沢くんと並んで歩くと思ったら、気まずさしかない。

何も考えていないのか、それとも私を揶揄っての発言なのかよくわからないけれど。

私の思考を少しばかり掻き乱してくれたその張本人は、気持ち良さげに展望台の柵からちょっと身を乗り出していた。