「ここもちょっと気になるかな」

ぼそりとつぶやくと、広沢くんが私の横からパンフレットを覗き込んできた。


「どれですか?」

少し動けばおでこ同士がぶつかりそうなくらいに広沢くんの距離が近くて、思わずパンフレットごと身を引いてしまう。

そうしてしまってから、態度があからさま過ぎたかと気になった。

そっと広沢くんを見ると、彼が何も気にしていない様子で笑いかけてきた。


「じゃぁ、最初にロープーウエイで上まで行って、そこからガーデン見ながらゆっくり歩いて降りてきますか?」

「そうね」

私に普通に笑いかけてくる広沢くんにぎこちなく微笑み返しながら、パンフレットを閉じる。


「行きましょう、れーこさん」

広沢くんがそう言って、慣れた動きで私の手をつかんだ。

自然と繋がれかけた手に驚いて、反射的にそれを振り払ってしまう。


「ちょっと……」

私の態度に、広沢くんは一瞬動作を止めて無表情になっていた。

ちょっと手が触れただけなのに。

まるで男の子と初めてデートする10代の女の子みたいな反応をしてしまった自分が恥ずかしかった。