「時間と待ち合わせ場所、決めとかないと。明日の13時頃、車でここに迎えにきます。着いたら電話するんで、ちゃんと連絡先を教えてもらってもいいですか?」
広沢くんがスマホを取り出して、小さく首を傾げる。
改めて聞いてくるってことは、以前に勝手に名簿で調べてかけてきた私の電話番号は素直に登録先から削除してくれたってことなのだろうか。
広沢くんの性格的にそんなふうにはあまり思えないけど……
そんなことを思いながら、私も今日は素直にスマホを出した。
「いいわよ。13時ね」
約束を交わしたあとに、電話番号とメッセージアプリの連絡先をお互いに教え合う。
「じゃぁ、また明日」
「明日。デート、楽しみにしてます」
車から降りてドアを閉めようとした私に、広沢くんがニヤリと笑いかけてきた。
「デートじゃなくて、『お礼』ね」
実質デートみたいなものなのだろうけど、相手が会社の部下だとその響きが妙に気恥ずかしい。
「いいんです。碓氷さんに会えるなら名目はなんだって」
敢えて言い直したのに、広沢くんの表情の声はやけに嬉しげだった。
「じゃぁお疲れ様。朝はゆっくり寝てね」
「おやすみなさい」
呆れ顔でドアを閉める私の耳に、広沢くんの声が漏れ聞こえてくる。
おやすみなさい。
心の中でつぶやき返して、窓の外から広沢くんに小さく手を振った。