「明日、午後からなら空いてるわよ」

「何ですか?」

車から降りずに話しかけてきた私を、広沢くんがラジオのチャンネルを弄りながら怪訝そうに見遣る。


「明日の午後は空いてる。だから、交通費とはべつに、今日のことと乃々香の練習や運動会に付き合ってもらったお礼をさせてもらえる?」

慎重に、言葉を選びながらそう言うと、チャンネルを弄る手を止めてしばらく黙り込んでいた広沢くんが、ぱっと目を輝かせた。


「碓氷さん。それってつまり、明日俺とデートしてくれるってことですか?」

「デートじゃなくて、お礼だってば。いろいろ助けてもらったお礼に、何かご馳走させて」

私のほうに乗り出してきそうになる広沢くんを、苦笑いしながら横から手で制止する。


「わかりました。じゃぁ、お昼過ぎにどっか出かけてそれから夜何か食べに行きましょう」

「そうね。じゃぁ、また明日」

「あ、待ってください」

今度こそ車から降りようとしたら、広沢くんが私を呼び止めた。