その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



「ちょっと!」

他の家族のシートだけは踏まないようにして、真っ直ぐに突き進んで行こうとする広沢くんを慌てて追いかける。


「す、すみません……」

小さな声で謝りながら広沢くんの後を追っていると、何組かの家族の迷惑そうな視線を感じた。

お弁当をもう広げ始めてる人たちもいるのに、横切られたら嫌がられて当然だ。

恐縮しながら進んでいると、先を歩いていた広沢くんが足を止めて振り返る。


「碓氷さん、ちゃんとついてきてくれないと」

「そんなこと言われたって……」

勝手にどんどん進み始めたくせに、そんな不満顔で文句を言われたって困る。

言い返してやろうと思ったのに、広沢くんは文句を言うだけ言ってすぐに私に背を向けた。

勝手なんだから……

声に出さなかった言葉を飲み込みながら、先を歩き出そうとする広沢くんとの距離ができないように一歩詰める。

けれど、歩き出すと思ったはずの広沢くんがその場にとどまったままでいるから、彼の背中に顔からぶつかりかけた。


「ちょっと!」

今度こそきっちり文句を言ってやろうと、眉を顰めながら顔を上げる。

そのとき、お弁当の入ったコンビニ袋を持っていないほうの手がとても自然な動きで前に立つ広沢くんにつかまれた。