その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



会話を放棄した私に、広沢くんが黙ってついてくる。

小学校から一番近いコンビニに入ると、私たちはそれぞれ自分の昼ご飯を選んだ。

しいたけが嫌いらしい広沢くんは、それが入っていない唐揚げ弁当を選んでいた。

レジで一緒にお会計をしようと思ったけど、直前で広沢くんに拒否された。

結局お互いに自分の分だけ支払って、私たちは小学校に戻った。

ふたりで戻ってきたときには、もう運動会の午前の部が終わっていて、ちょうど昼休みが始まるところだった。

シートで埋め尽くされた保護者席エリアは、お弁当を食べるために家族のところにやってきた生徒たちとその保護者でいっぱいになっている。

既に広げられ始めているお弁当のいい匂いが、四方八方から漂ってきていた。


「礼ちゃん、広沢くん!こっちだよ!」

誠司くんの姿を探してきょろきょろしていると、保護者席エリアの真ん中あたりから乃々香の声が聞こえてきた。

私たちに両手を大きく手を振っている。

私と広沢くんが同時に手を振り返すと、乃々香が嬉しそうに破顔した。

けれど、誠司くんがシートを敷いている場所までは、他の家族のシートという障害物がいくつもある。


「すみません、通ります」

どう回り込めば迷惑にならないだろうか。

私はその行き方を探ろうとしているのに、広沢くんの考えは違うらしい。

目の前のシートに座っている家族に爽やかな笑顔で断りを入れて、最短距離で誠司くんと乃々香のいるところまで突っ切ろうとするから焦った。