その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



「とにかく、お昼は私が奢るから広沢くんは戻ってて」

これ以上、自分の複雑な感情に首を突っ込まれたくなくて、広沢くんを避けて歩き出す。

けれど、広沢くんはすぐに追いかけてきて私の横に並んだ。


「碓氷さんて、仕事でもそうですけど、ちょっと独りよがりっていうか。何でもひとりで自己完結させようとしちゃいますよね」

前を向いて歩きながら、広沢くんが独り言みたいにボソリと言う。


「悪口だったら、聞こえないところで言ってもらえる?」

「そうじゃなくて」

同じように前を向いたままそう応えたら、広沢くんが可笑しそうに吹き出した。


「何でもひとりで背負うんじゃなくて、もうちょっと周りにも頼ればいいのにって思うだけです」

「頼れるところは頼ってるわよ。仕事だって、みんなが無理がないようにきちんと割り振ってる」

「知ってます。それで、みんなが無理なところを碓氷さんが勝手に気遣って背負ってるんでしょ?」

わかったように諭してくる広沢くんに、大人げもなくムッとした。