その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



「置いていかないでくださいよ」

走って追いかけてきたのか、振り返った私を見て広沢くんが呼吸を整えるように息を吐いた。


「広沢くんの分も買ってくるって言ったはずだけど」

「自分の分くらい、俺も買いに行きますよ」

「いいわよ。ここまで送ってもらったし、お礼にお昼は奢るわ」

広沢くんの手を繋いではしゃいでいた乃々香の嬉しそうな顔を思い出す。


「乃々香も、あなたに応援してもらうほうが嬉しいみたいだし」

思わず口を突いて出た言葉がなんだか嫌味っぽく響いたような気がした。


「碓氷さん、それってヤキモチですか?」

「誰に対する?」

ニヤリと唇の端を引き上げた広沢くんを冷めた目で見遣る。

広沢くんの指摘はあながち間違ってはいない。

嬉しそうに笑う乃々香が、私よりも広沢くんのことを歓迎しているように思えてしまったのは確かで。

誠司くんと乃々香と広沢くんと、3人で話す姿にちょっと疎外感を感じて逃げ出してきたことは否定できないのだから。