その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



なんだか、私以外が家族みたいだ。


「広沢くん、乃々香の家のシートはあっちだよ」

「乃々香はもう応援席のほうに戻らないと。パパがちゃんと案内しておくから大丈夫だよ」

乃々香が少しの躊躇もなく、広沢くんの手をつかんで保護者席へと引っ張っていこうとする。

それを制する誠司くんの声をどこか遠くに聞きながら、私は苦笑いを浮かべていた。


「誠司くん。私、コンビニに行ってお昼買ってくるわね。広沢くんの分も買ってくるから、先に保護者席に行っておいて」

「あ、碓氷さん?」

広沢くんに声をかけられたけれど、気が付かないフリをして彼らに背を向ける。

子どもたちの競技に夢中になっている保護者
たちや来賓席のテントの後ろを足早に歩く。

運動会ということで、デニムのズボンだったりスキニーパンツだったり。ラフな格好に足元はスニーカーという大人たちが大勢いるなか、取引先に出向くためにパンツスーツとヒールの靴で校庭を歩く自分が、誰に見られているわけでもないのにとても浮いているような気がした。


「待ってください、碓氷さん」

早く校庭を出てしまおうとより急ぎ足になりかけたとき、後ろから強く肩をつかまれた。