その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



まるで広沢くんに恋でもしているかのような、そんな乃々香の表情の変化になぜか胸が騒いだ。

たった一度きり。しかも数時間の関わりで、乃々香にこんなにも影響力を与えてしまった広沢くんがすごいと思う。

だから、どの取引先に出向いてもうまく契約を結んでくることが多いんだろう。


「あの、よかったら一緒に見て行きませんか?」

乃々香の言動に心を動かされたのか、広沢くんが好印象だったのか。

誠司くんが広沢くんに笑顔で誘いかけた。

好意的な誠司くんの誘いを受けて、広沢くんが立ち上がる。


「いいんですか?」

「もちろんです。ただ、もうすぐ昼休みに入るんですけど、お弁当が僕と乃々香の分しか用意がなくて……お昼だけ近くのコンビニとかで買ってきてもらわなきゃならないんですけど……」

「気にかけていただいてありがとうございます。お昼はもちろん、その辺で調達してきます」

「礼ちゃんと広沢くんも一緒にお弁当食べられるの?やったー」

誠司くんと広沢くんの会話をそばで聞いていた乃々香が興奮気味にぴょんと跳ねる。

誠司くんと広沢くんと乃々香の3人でトントンと進んでいく展開。

私はそれについていくことができずに、黙って立っていた。