「このまま乃々香ちゃんの小学校に向かいます?」

腕時計で時間を確かめる広沢くんにつられるようにして、私も自分の腕時計に視線を落とす。


「そのつもり。じゃぁ、本当にありがとう。午後からはゆっくりしてね。お疲れ様」

「碓氷さん、どっちに向かうんですか?」

軽く手を振りあげて、電車の最寄駅方面に向かって歩き出そうとすると、広沢くんに呼び止められた。


「駅だけど。タクシー拾うにしても駅まで出たほうが便利でしょう」

少しでも早く駅に向かいたくて、進行方向に半分体を向けたまま振り返る。

そんな私を見つめる広沢くんの目は、どこか複雑そうだった。

聞きたいことがそれだけだったのなら、もう行きたいんだけど……

私が怪訝に眉を顰めたのと、広沢くんがため息を吐くのとは、ほぼ同じタイミングだった。


「何?急ぎたいんだけど」

広沢くんにため息を吐かれる理由がわからなくて、つい苛立ちが声に出た。