「え?」
「もし交通費のことで碓氷さんが経理に交渉してくれるつもりなら、その労力と時間を俺とのデートに使ってください」
「何、その冗談……」
真顔でつぶやく私に、広沢くんがなんだか可愛く首を傾げてみせる。
「冗談じゃなくて、本気です」
そう言って広沢くんが綺麗に微笑むから、彼を見つめ返したまま言葉を失った。
「あ、青だ」
真顔で絶句する私から視線を外した広沢くんが、ハンドルを軽く握り直す。
それから何事もなかったかのように、車を発進させた。
「そうだ、碓氷さん。あと10分くらいで着くんで、イベント会場の近くのパーキングの場所調べといてもらっていいですか?」
「え?あ、うん……」
運転する広沢くんの横顔は、ふざけても笑ってもいなくて、至って真面目だ。
さっきの話は、私の聞き間違いか、もしくは錯覚……?
それとも、やっぱり広沢くんの冗談だった……?
よくわからないけど、もうそれを確かめるような雰囲気でもない。



