ナビに設定された目的地まではだいたい30分。
今のところ渋滞もないようで、イベント会場にはかなり余裕を持って到着できそうだ。
車を発進させてから、広沢くんは特に何も話さない。
静かな車内には私は聞いたことがない男性ボーカルの洋楽がかかっていた。
低すぎない柔らかな聴き心地の良い歌声に耳をすませて黙っていればいいのか、何か話しかけるべきなのか。
助手席での自分の役割に迷う。
横目で運転席の広沢くんを盗み見たら、ちょうど左折のためにこちらに顔を向けた彼と視界の端で目が合った。
「早めに着きそうで良かったですね。乃々香ちゃんの運動会も、午前中の途中から見られるんじゃないですか?」
前方を確認してハンドルを切りながら、広沢くんが車で走り出してから初めて声をかけてきた。
無意識に緊張していたようで、広沢くんから自然に話しかけてもらえてほっとした。
「そうね。広沢くんには迷惑をかけてしまって申し訳ないけど、すごく助かる。ありがとう」
「どういたしまして。俺は別に迷惑なんて思ってないし、むしろ土曜日碓氷さんとドライブできてラッキーなんで気にしないでください」
正面を向いたまま、広沢くんがけらっと笑う。



