「碓氷さんて、北原支店長と付き合ってたんですね」

広沢くんが、少し私に顔を寄せるようにしてその名前を口に出す。


北原支店長。

それが、さっきまで向かい合って座っていた彼の名前だ。

私が今しがた振られたばかりの彼は、同じ会社の支店長だった。


「付き合ってないわ」

特に社内恋愛が禁止されているわけではないけれど、私と北原支店長はそれぞれの会社での立場上、交際を公にはしていなかった。

していなかったから、彼に副社長のお嬢さんとのお見合いの話がきたのだろうし。

別れた以上、私たちが一緒にいたところを見た広沢くんに、会社で余計なことを喋られては困る。

きっぱりと否定したら、なぜか広沢くんが可笑しそうにクスクスと笑った。


「そっか。今別れたところですもんね」