その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



「へぇ、そんな噂あったんですね」

「菅野さん、中途採用ですもんね。菅野さんが入る前に、広沢さんと同期の人たちががそんな話してたんですよ。それで、何かあるんですか?」

「何かって?」

「何もないのに、噂ってたたないでしょ」

広沢くんがニヤリと笑みを浮かべる秋元くんを興味なさそうな目で見る。


何もないのに……か。

秋元くんの言葉に、最近の広沢くんとの一連の出来事がいろいろと思い出されてくる。

彼を特別優遇したことはないけど、最近は「何もない」とはっきり断言していいものかちょっと怪しいかもしれない。

話を振られたら困るから、秋元くんたちの話を聞いてないふりをして一心不乱におにぎりを食べた。


「周りをちゃんと観察して人のこと見とけば、取引先の希望を汲み取るのに役立つだろ。俺は私情抜きで、いつも周りに気を配ってんの」

真相に迫ろうとしつこく問いかける秋元くんのことを、広沢くんがふっと鼻先で笑う。


「そうなんですか?」

「そうだよ」

広沢くんがあまりに平然としているから、秋元くんも聞いたところで何も出てこないと思ったらしい。

広沢くんにそれ以上追求しようとしなかった。