その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



「碓氷さん、すみません。私……」

私が印刷会社の担当者と話すのを横で聞いていた菅野さんが、受話器をおろした私を見つめて顔面蒼白になる。


「どうしたらいいですか?私、企画部長に謝罪に……」

「ちょっと待って」

おろおろとして、すぐにでも企画部長の元へと向かおうとする菅野さんを引き止める。


「大丈夫。企画部長への報告は私がちゃんとするから」

「でも……」

「大丈夫。依頼のメールをしたときに気付かなかった私に責任があるから」

「でも、碓氷さんは私を信用して依頼の連絡を任せてくれたのに……」

だんだん泣きそうな顔になっていく菅野さんの肩をぽんと叩く。


「大丈夫。何とかなるから。ちょっと対策を考えてから、企画部長に報告に行くわね。とりあえず、みんな各自のデスクに戻って自分の仕事を続けておいて」

「本当にすみません……」

菅野さんが何度も泣きそうな顔で頭を下げながら。秋元くんは、心配そうに表情を曇らせながら。それぞれにデスクに戻っていく。

みんなが離れて行ってから、パンフレットの束を見つめてじっと考え込む。


「碓氷さん」

呼ばれて顔を上げると、広沢くんだけがまだ私のそばを離れずに立っていた。