その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



「え?そんなはずはないと思うんですけど……」

「いや、パンフレットのみですよ。今、こちらでも菅野さんから送ってもらった依頼のときのメールを確認してるんですけど。添付されてる原稿は、パンフレットのみです」

「本当ですか?」

確かに、印刷会社に依頼をする前に、パンフレットと折り込みチラシの原稿をこの目で確認したはずなのに……

俄かに信じられなくて、私もパソコンでメールをチェックする。

印刷会社への依頼メールは、菅野さんがBCCで私と広沢くんと秋元くんにも送信してくれている。

だから、間違いないはずなのに。

そう思いながらメールを下までスクロールしおわったとき、マウスを握る私の指先が冷たく凍りついた。


え、嘘……

印刷会社の担当者が言うとおり、そのメールにはパンフレット原稿しか添付されていない。

依頼のときのこちらのミスだったのだ。


「申し訳ありません。確かに、そちらの仰るとおりです」

「そうですよね?追加の印刷が必要でしたら、原稿を送っていただけたら対応しますけど。どうしますか?」

「今から送ったとして、早くていつ仕上がりますか?」

「そうですね……一番早くて週明けかと」

「明日の朝は?」

「すみません、今からではそれはちょっと……」

担当者が言葉を濁す。


「わかりました。もしお願いする場合またご連絡します」

少し迷ってから、私は担当者との電話を切った。